クラッチバッグ・飯島正章|2013年


竹って古くから身近にあるのによくわからない。そういえば、竹取の翁は竹で何を作っていたのだろう。

 

実用品?年を取ると盛り籠20個をまとめて作るのはきついのだそうだ。厚くて節の入ったひごは割るのも曲げるのも力を使う。

 

「これからは工芸品」と彼は言う。例えばこのクラッチバッグ。

竹ならではの編みの質感にも独自の工夫がもちろんある。竹ひごの巾、厚さ、些細なことが決め手になる。

意外なのは、この形。バッグとしては普通かも。でもふだん長方形や円形の多い籠・ざるの世界では実はちょっとした冒険だ。慣れない形の枠にさりげなくきれいに編みをまとめるのは難しい。

 

さらに注目すべきは金具がついていること。古い弁当箱入れを手本としたが、竹かごにどうやって金属部品を美しく固定するのか、そもそも専用の金具をどうやって作るのか。金属という新たな素材に翻弄されつつ彼の胸は躍るのである。

 

そしてこの金具、漆作家の作品でもある。留め金ばかりか丁番にも漆絵が施されている。また持ち手は名古屋の組みひも作家の作、内貼りは古布で、京都まで探しに行くこともあるという。

 

なんという贅沢。まだ見ぬ異国の女性に思いを巡らしデザインしたのだそうな。

しかしそんな女性の登場も夢ではない。

 

5年前から始めたギャラリーは木曽の山奥。にもかかわらず、足を運ぶお客さんは着実に増えている。作家を呼んで開催する展示会も好評で、このバッグもそこから生まれた。

 

どうやらこのバッグに必要なのは、体力よりも知識や経験、人とのつながりのようだ。

竹取の翁はバッグを作って美しい女性と出会っているのだろうか。

 

でも眼は大切に。使う竹ひごは400本。老眼鏡2個と拡大鏡は現在必需品だ。

 

 

 

                                       2015.9.6 狐崎

 

 


クラッチバッグ・飯島正章

2013年製作|280×140×50mm|¥300,000(込)

真竹、籐、真鍮(金具漆絵:瀬尾 誠)、組みひも(工房多津蔵)、古布

竹は着色、「ほこりつけ」のあと上塗りはオイル塗装。注文に応じてサイズや各種仕様を変更できる。


飯島さんからのコメント。

 

作品紹介ありがとうございました。

 

普段あまり意識せずにしている仕事のことを、突っ込んで聞かれてたじたじでした。

決して責められてるわけではないのですが、なぜか言い訳したり妙につじつまを

合わせるようなお答えをしてしまったように思います。


 

1つだけ補足させてください。

「これからは工芸」というところの工芸とは、一品ものに近い少量生産で実用性

ばかりでなく装飾的要素の多い物といった意味です。

工芸というと漠然と広い意味があるので補足させていただきました。


飯島正章