お邪魔した日:2012年7月13日
お邪魔した人:飯島正章、狐崎ゆうこ、花塚光弘、前田大作
大作さんの工房は小さくて、すっきりしている。
仕事場にはゴミ一つない。
修行時代の習慣で毎朝7時半には仕事場の掃除を始めないと落ち着かない。
箒は三代目。いつも行商人から買っており、持ち手にタコ糸を巻き、漆を塗ると、
「滑りにくいので何時間掃いても疲れません。」
仕事場は3×3間、作業台と外国製の薪ストーブ、
壁には鉋と鋸がずらりと掛けられ、
その下には自分で作った工具入れのキャビネットが整然と並んでいる。
大型機械はない。
いやいや、彼は同じく木の匠の出展者である前田純一さんの息子であり、
仕事場は前田さんの工房の一角にあり、機械も共用しているのである。
江戸指物師の4代目と言われて育った彼は、
跡を継ぐかどうか迷いつつも工学部に進学して就職、
しかし結局木工を選び、父に弟子入りする。
でも他の木工家と比べて自分は周りに流されて木工をやっているんじゃないかと
後ろめたくなるらしい。真面目なのである。
「木の匠」の中で気になる人として挙げたのも、
家業を継いで真剣に取り組んでいる小椋さんや、
漆の産地輪島の職人として道を究めた酒井さん。「正統派」が気になるようだ。
確かに彼は指物師として正統派で、主に作るのは収納家具。
銀座の和光で展示会をしたときは抽斗を100杯くらい作った。
家中作品だらけになったらしい。
抽斗を一つ一つ本体に合わせて削っていくだけでも、
単純作業とはいえ面倒なことだ。
しかし収納は今や住宅の付属部品となり、丁寧に作った高価な家具屋の箱物は大層分が悪い。
しかも彼が特に思い入れを感じるのは小抽斗である。
おじいちゃんの家の箪笥の上にちょこんと乗っているあれだろうか。
渋い趣味。悩みの種はきっちり作りすぎてしまうことだそうだ。
少々年寄りくさい彼は「木の匠」では一番の若手であり、ただ一人の「現代人」である。
我々に代わりパソコンを駆使して数々の雑用を引き受けてくれて、
つい先日とうとうハードディスクを破壊してしまった。
彼はいつかそのハードディスクのように壊れてしまい、
「こんなことやってられるか!」と叫びだすのではないだろうか、と私は楽しみにしている。
彼の一族は代々新天地を求めて移住しているらしい。
彼もここからどこかに飛び出して行くのだろうか。
●こだわりの道具は何ですか?
自分で作った際ガンナ。鉋台に手押しの刃を短く切ったものを差し込むときに
穴が渋いと割れてしまう。うまく調整するのに手間がかかるが、仕上がりに満足しているそうだ。
ハイス鋼の鉋やノミは、研ぎにくいが長持ちするので気に入っている。
●「木の匠」の中で気になる人、気に入ったものはありますか?
どんなところが気に入りましたか?
全ての工房訪問を終えた後、「気になる人」を小椋さん、酒井さんからいきなり
大場さんに変更すると言い出した。
「大場さんの情熱的な作家っぽいところと
冷静な職人的なところの混ざった雰囲気にとても興味がある」
いよいよ大作さんに変化の兆しか?
松本の市街地から車で20分とちょっと。
前田さんの工房は とても眺めのいい山の中にある。
どこを撮っても絵になるような建物と風景。
工房内はかなりキレイに整頓されている。
父親の純一さん・純一さんのお弟子さん3人・そして大作さんの5人で
毎日この工房で制作しているという。
8才の時 純一さんに連れられて この入山辺にやって来た大作さん。
お姉さんと2人 都会のマンモス校から突然全校3人の小学校へ。
僕の子供も今同じように少人数の小学校に通っているので
大作さんの生き方にとても興味がある。
大作さんはとにかく真面目で良い人。
大作さんのことを嫌いな人なんているのだろうかと思うくらい。
この真面目さは父親の純一さんの育て方のせいだろうか?
それとも3人しかいない小学校で手を抜くことなんてとてもできなかったせいだろうか?
作っている作品にもその真面目さと強いこだわりを感じる。
以前工業デザインをやっていた大作さんの作品は
シンプルなデザインで木目の美しさ・ラインの美しさがより際立ってくる。
引き出しの取っ手など自分の工房で納得のいくカタチに作る
金属のワンポイントもとても存在感がある。
前田木藝工房の4代目に生まれて
木工以外の道に進むこともできたが自分で木工の道を選んだ大作さん。
常に疑問を持ち新しいものを作っていく純一さん作品は用の美の中に遊び心がある。
その父親作ってきた世界を近くで見てきた大作さんはまた違う木工の道を作っていきそうだ。
木の匠たち展では一番の若手。これからまだまだ楽しみな大作さんです。