奥田さんの工房

 

 奥田さんの工房は、3間半×6間くらいの広さで、一見するとただの農家の古びた小屋だ。中にも古い柱や梁、土壁が残っている。

 

 入口からのぞくと右半分は奥まで木工機械が置かれているのが見える。幅250㎜くらいの手押しかんな盤、幅400くらいの自動かんな盤、盤傾斜の昇降盤、テーブルルーター、バンドソー、角のみ盤。大型機械は必要最小限の品ぞろえのようだ。

 

 左半分は床が一段上がって作業台や旋盤などがある組み立て場。壁には手 道具、電動工具の棚、縦に2列ずらっと並んだ大きめの引き出しなど収納の割合が多め。作業台の下にも小抽斗がいくつかおさめられているし、奥には頭上にも治具や椅子の部材が入った箱が並んでいる。

 そこそこの広さのはずなのだが、いろいろなものがギュッと詰まっていてとてもにぎやかだ。

 奥田さんはいろんな家具製作をするが椅子の仕事が多い。建築家やデザイナーから頼りにされている職人だ。彼らの発想をもとに実際に形にしていく。意外にも構造まで指定した注文は少ないらしい。

 無理難題と思える注文でも木材の性質に合わせて強度を保てるようにする。複雑な形の椅子の脚なら複雑な治具を作る。ただのイラストみたいなものからでも加工法を編み出し、ちゃんと使える製品を作り出すことができる。その仕事は外からは目立たない。

 

 そうしてたくさんの技法の引き出しを増やしてきた。加工法の話になると、次々と治具や加工見本がでてくる。

 

 そんな技法をさらに発展させて自分の作品を作ることもある。ねじれた積層(ラミネート)のアーム(椅子の背もたれ兼ひじ掛け)。薄板を何層も曲げながら接着する。2次元のカーブなら比較的やさしいが、3次元のひねりが入るときれいにくっつけて思い通りの曲線にするのは難しくて面倒だ。

 でも、「なんでもやろうと思えばできる。」出来そうにないものを見るとかえって腕が鳴るようだ。

 

 さて、奥田さんがこの工房を構えたのは5年前のこと。25 年ほど前まで近くの池田町にいたが、その後北海道に移転。そしてまた長野県に戻ってきた。遠距離の工房移転は手間もお金もかかるけれど、何より仕事先との関係が切れるのは心配ではなかったんだろうか。

 

 しかし注文は途切れることなく続いている。「奇跡のようだ」と奥田さんは言うけれど。左奥にある台にはこれまで注文された家具の原寸図が何枚も重ねられていた。

 

 奥田さんの工房は、実験成果でいっぱいの研究室のようなところだった。

 

2023.6.8 狐崎

 

こだわりの道具は何ですか?

 

 こてのみ  ちょっとした目違払い(小さな段差を削ること)がすうっとできるので便利。