山形さんの工房
ざっくり荒めに削った脚に七島いぐさ編みのスツール。10年以上前、展示会の会場で淡々と座面を編み続けるその様子は、朴訥、寡黙といったイメージだったのだが…。
初めて訪ねた山形さんの工房は、緑の中、まるでペンションのようなかわいい建物の隣にあった。その建物は奥さんが昔やっていたレストランで、山形さんの手作り。若いころは大工で、なんと基礎から一人で家を建てていた。
意外な「作風」にまず驚いた後、中へ。
一見したところ、工房は家具屋としては一般的だ。バンドソー、横切、手押、自動、昇降盤、角のみと大型機械は一通りそろっている。でも手押・自動・昇降盤は一体型の小さい万能機だ。そして薪割機がある。木取り用かな。またよく見ると壁は間柱に外壁だけの大変簡素な造り。これで果たして大町市の冬を越せるのか。
やや物置っぽい機械場に対して、隣の手加工場は、こじんまりしているが床や壁の材料が立派で大きな薪ストーブもあり、いかにも居心地が良さそう。
ここにある旋盤とボール盤、手工具類がこの工房の主役だ。
大型機械はなるべく使いたくない。板を平らに削って寸法をそろえることはあまりない。ほぞ穴の角度はハンドドリルで見当をつける。昔ながらの手作りの椅子の作り方だ。この日は椅子のほぞの部分を熱して細くしているところだった。パーツはみな型板に沿ってバンドソーで大まかに成型してある。図面はない。
精密な加工はできないが、自由度が高いぶんお客さんの希望に合わせてサイズを細かく調整することができる。いろいろなお客さんの仕事を通してデザインも変化していく。
ここ数年ほどは特に座り心地を追及している。チェアフィッティングの勉強もして身体の感覚を大切に、リデザインし続けている。
編みの座面が得意な山形さんだが、最新作の座面は木材。骨盤を支える深い座繰りのスツールだ。この加工の道具も工夫した。苦労して作った道具やジグ類は企業秘密。素朴な作風の裏に意外にも研究開発の成果が隠されているのだ。
椅子のこと、座面の編み材のこと、丸太のこと、話題が尽きない。つい最後の質問、「思い入れのある道具は何ですか?」忘れていたので後でメールで送ってもらった。
思いのあふれる彼の文章、ぜひ読んでください。
(2021.6.22取材 狐崎)
・思い入れのある道具は何ですか? 銑(せん)
銑のこと 山形 英三
削り出し椅子の仕上げ削りに使っている、一枚刃の道具です。
サンドペーパーを使わず、銑で削った跡をそのまま仕上げにしているので、多面体の連続で曲線を成しています。
経年変化のひとつとして、ひとつひとつの面が光を反射して角度によってきらきらと光ります。
この感じが大好きで私の椅子の仕上げ削りにはこの銑という道具が欠かせません。
古い民家の梁は手斧(ちょうな)でハツリ仕上げられていることが多いです。
ざっくりと削り取られた跡は長い年月の間に黒光りして素晴らしい光沢を放っています。
この感じがぞくぞくする程好きです。
この雰囲気を椅子の仕上げ削りで出せないかと摸索していた時に出会いました。
大町に移住して間もなく、ちょうど同じ頃、京都から移住してきた一家と知り合いました。 今でもずっと大切な隣人(反対側の山ですが)として仲良くしていただいています。 ご主人のお父様が奈良で桐下駄職人さんでした。 その界隈で次々に職人さんが廃業され、最後に残ったそうです。 使わなくなった道具が先にやめた職人さんから集まり箱いくつにもなってしまったそうです。 最後に残ったお父様が亡くなった後、息子さんがその道具達を全部引き取ることになり、 持っているだけでは錆びさせてしまうだけなので、使ってもらえる人がいればと、形見分けとしてこの銑(セン)をいただきました。 ちょうど、自分の作風を表現する方法を摸索していた頃だったので、渡りに船といったところでした。 下駄を作る時には、柔らかい桐の木なので、下駄の形を整える時に上からざくざく押し切る形で使われていた写真を見た事があります。 使い込まれた銑は、研いで研いで鋼が数ミリしか残っていない刃もあり、昔の職人さんの仕事を垣間みる事ができました。 柄は桐の木の細い枝ですげられています。 わざわざ虫喰いの穴だらけの枝が使われている柄もあり、これは使っていて分かったのですが、 一日中銑削りしていても、まめができた事がありません。 柔らかい肌触りとほどよいグリップ、そしてラジエーターとしてうまく放熱してくれます。 先人の知恵と工夫に気付いた時はとても嬉しい気持ちになります。 一生大切に使っていきたい道具のひとつです。
2021.6.22