金澤さんの工房にはいくつもの顔がある。
こじんまりとした建物は3つのエリアに分かれている。
1つ目は3台の旋盤が据えられた細長い部屋。
一番奥に自動の(刃が自動で動く)ならい旋盤。29歳の時、旋盤未経験なのに60万で買った。やる気満々で修業先を探したが次々と断られてやむなくお蔵入り。実は単純な加工には大変役に立つ機械であることが後にわかるのだが、使いこなせるようになるまで悪戦苦闘することになる。
30代初めに買ったのが右。こちらは手動式、80万。棒状のものだけでなく、階段の擬宝珠から指輪まで、細かい複雑な加工ができる技巧派の旋盤だ。
そして左が〇代で買った台湾製旋盤。弟子の勉強用。
天井近くには山のように板が積んである。ならい旋盤の型だ。この型の数だけたくさんの種類の注文をこなしてきた。
2つ目のエリアはこの裏。溶接の作業場だ。
勤めていた木工会社を30代半ばに退職。それを機に知人のすすめで、それまで全く興味のなかった溶接の勉強をする。40代初めにはとうとう溶接機を入手、建築家と組んで薪ストーブの制作を本格的に開始する。
第3のエリアは一見応接室風。
ここで使うのは自分の体だけ。椅子の座面をいぐさや和紙などで編んでいる。20代初め、松本民芸在籍時代に身に着けた技術だ。のちに業務用の椅子50脚の修理も一手に引き受けた。
めまぐるしく変わる職歴、着実に積み重ねられていく技術と経験、高まる周囲の信頼と注文。
そして40代からは念願だった椅子のデザインにも取り組んでいる。本体制作は職人に依頼しているが、旋盤や座編み、溶接を通して数多くの木工屋、建築家とその作品に触れてきた。その経験はどう生かされているのだろうか。
(2020.6.24 狐崎ゆうこ)
思い入れのある道具は?
旋盤用のバイト。刃は岐阜の専門メーカーのもの。合わせ刃なので研ぎやすく、厚みもあるので削っていてもぶれにくい。今は用途別に様々な形の刃があるが、たいていの仕事はこれ1本で出来る。刃先のどこで削るか、部材に当てる角度、持ち方など試行錯誤してきた。